こんにちは。運営堂の森野です。
JADEの皆さんに業務のことをお聞きしてきましたが、どうしてもわからなかったのが「インターネットを良くする」と「長山さんの思想」です。そもそも理解できないものかもしれませんし、理解しようとするのが無謀かもしれませんが……。果たしてどうなったのでしょうか?
【もくじ】
- 「インターネットを良くする」とは何か?
- 多様な解釈に開かれた「良さ」と、明示的に示された「悪さ」
- JADEのバリュー、その三本柱
- 現在のインターネットは良いものだろうか?
- JADEという会社のちょっと未来の話
「インターネットを良くする」とは何か?
森野 今までいろいろな方々にお話をお聞きしたんですけど、ここまでしっかりと会社として意思統一されているのを理解するには、そもそも「JADEさんって会社がなんぞや?」ということも明らかにせねばと思っています。
JADEさんは「インターネットを良くする」という会社だとおっしゃっているのですが、「良くする」って聞くと、なんでもかんでも「けしからん、けしからん」というイメージがあります。「良くする」というのは長山さん的にはどんなイメージなんでしょうか?
長山 もともと僕は検索エンジンやソーシャルネットワークなどのプラットフォーム側でスパム対策をしていました。「悪いものを取り除く」のは、確かにインターネットを良くするひとつのやり方です。一方で、Web担当者と関わる中で気づいたのは、「ウェブサイトの本来の価値がしっかり伝わっていないケースが多い」ということです。検索エンジンへの伝え方が不十分だったり、ユーザーに届く適切な言葉が見つかっていなかったりで、価値が正しく伝わらないことがよくあるんですよね。そういったサイトが価値をしっかり伝えることができれば、それだけでインターネットはもっと良くなる、とまずは思っています。
検索エンジンで自分のサービスの価値を届けたいけど、どうすればいいかわからない」という人やビジネスをサポートすることも、インターネットを良くする活動だと思うんです。
もちろん、「良くないものは良くない」と伝えることも大事です。例えば「寄生サイトには注意してくださいね」といった情報発信ですね。両方が大切なんじゃないかなと感じています。
森野 良いことをやっている人がいて、その人の情報が正しく届けられれば、検索結果もおそらくそうなっていくだろうし、反対に悪いことやっている人が「これダメだよ」と気づいてやめていけば、どんどん綺麗になっていくだろうという感じでしょうか。
長山 そうですね。
森野 あとは、この話が至極当たり前の話なので、正しすぎて怖いイメージが出てしまう気もしています。こういったことを感じることってありますか?
長山 よくわからないですが、怖いとは言われますね。
森野 学級委員とか生徒会長が真面目すぎて怖い、みたいな空気感が日本にはあるんですけど。
長山 生徒会長もやっていたので、ずっと怖がられる側の人間だったのかも知れないですね……
森野 なるほど。ずっとそちら側の人間……そちら側って言っちゃいけないかな(笑)。
長山 そうですね(笑)。
森野 「インターネットを良くする」を会社のミッションにしたっていうのはいつごろからですか?
長山 最初からです。会社としてビジネスを展開するに際し、「インターネットを良くする」というビジョンや目的が先にあるべきだと思っています。その目的を実現するための手段のひとつとして、コンサルティング事業が位置づけられるのが理想です。
SEOだけでなく、広告やGoogleアナリティクス(GA4)など、デジタルマーケティング全般を扱っていますが、「SEOができるからやる」、「広告ができるからやる」といった、「できるから」という理由だけで進めてしまうと、「ガイディングプリンシプル(経営指針)」がなくて、どんな基準で意思決定を行うかが難しくなってしまいます。
もちろん、効率性を考えた意思決定もありますが、最終的には「この判断がインターネットを良くするかどうか」という視点を持つことが、会社の方向性を定めることになります。こういったガイディングプリンシプルがある会社であることは、JADEにとってとても重要です。
森野 ともすると、売り上げだけ追ってしまったり、なにかしらの成果だけを追ってしまうので、ガイドライン違反などもしてしまうと。
長山 ガイドライン違反はちょっと極端な例ですね(笑)。仮に短期的にはちょっと上がるかもしれないけど、中長期的には下がってしまう、というような施策があったとしたら、基本的にはご提案しないかなと思います。クライアントにとって中長期的に有益な提案をすることによって、最終的にインターネットが良くなる。それを積み重ねていくというビジョンかなと思います。
森野 SEOの話もここからスタートでしたもんね。
長山 そうですね。
【過去のインタビュー:SEO編】
多様な解釈に開かれた「良さ」と、明示的に示された「悪さ」
森野 ここからは会社概要に書かれている「外的脅威からプラットフォームを守ること」、「正しい知識を啓蒙すること」、「邪悪にならないこと」について教えて下さい。
長山 弊社ではマーケティング支援だけじゃなくて、トラスト&セーフティのアドバイザリーもしていて、どうすればそれを実現できるのかを考えています。そして、単にコンサルティングだけではなく、より多くの人に伝えるためのメディアとしてのJADEということもやっている。
森野 それでこの三つが入っているということですね。「正しい知識を啓蒙すること」、「邪悪にならないこと」もそうなんですが、日々仕事をしていると何となく楽なほうというかちょっと邪悪なほうに流れちゃったりするんですけども、それはやらないっていうこと。
長山 そうですね。「インターネットを良くする」を前面に出しすぎて、それだけを考えてしまうことには危険性が伴うと考えています。「良いインターネット」に関するビジョンは、人によって異なりうるからです。
弊社の三つのバリューの中に「Conviviality」というものがあります。これはイヴァン・イリイチという哲学者からとったワードです。意見の多様性であったりとか、出自の多様性であったりとか、他者が他者のままで共に生きていくという点に主眼が置かれたバリューです。なので、JADEでは、一様であることを必ずしも強制しない。複数の解釈に開かれていることに価値を感じる。
ですから、「これが良いインターネットのあるべき姿だ」ということについて、全会一致で合意しなくてもいいと思っているんです。むしろ、ひとつの「あるべき姿」という理想が全員に強制されている状態に違和感がある。
一方で、「これはインターネットにとって良くないよね」という「悪さ」については合意しやすいと思っています。例えば検索流入を獲得するために低品質なコンテンツを大量に投下することは、一時的に流入が獲得できたとしても、ユーザーにとっては良くないことです。こういったように、「良さ」を明確に定義するのではなく、「悪さ」を定義する、ということを積極的にやっています。
森野 「悪いことをしない」。
長山 かつてGoogleのプリンシプルのひとつであった「Don't Be Evil」みたいなことですね。これを念頭に置いて書いています。
森野 「良さの定義」をしてしまうと、ちょっと宗教じみてきちゃいますもんね。
長山 みんなが同じようにインターネットを良くしたいと思っているのに、それぞれの人が考える「良さ」がちょっとずつ違うことによって、「お前の良さは間違っている」といった議論になることもあります。僕としては方向性として同じなのであれば、別にいいんじゃないか、と考えています。
森野 無理に引っ張るわけじゃなくって、「こっちに行かなければいいかな」って感じですね。もしくは「こっちの方に行ってくれれば」ってことですね。野球のフェアゾーンみたいに、この範囲に入っていればいいよ、という感じですか。長山さんの考えが分かってきました。
JADEのバリュー、その三本柱
森野 すでに話が出ましたがバリューにある「自分に対するスタンス」もなかなか面白いなと思っています。ええと……Curiosity。これを重要視しているのは社員の皆さんに常に成長してほしい、みたいなところがあるとか?
長山 個人的には「成長」という言葉はあまり好きではないので自分では使いませんが、好奇心を持っていろんなことを調べるとか、とりあえずやってみるとか、知らないことに対して、先入観にとらわれない人が、JADEには合っているんじゃないかなとは思います。
【過去のインタビュー:広告運用メンバー編】
長山 バリューを決めるときにメンバー全員でブレストをして、JADEにおいて「どういうカルチャーを推進したいのか」、「どういう人だったらヒットするのか」を出していき、それをクラスタリングして整理していったら、「Curiosity」・「Integrity」・「Conviviality」の三つが残った、という経緯があります。
Curiosityは「自分がどう行動するか」。
Integrityは「社会に対してどのように向き合うか」。
Convivialityは「お互いに対してどのように向き合うか」。
森野 どれかひとつじゃなくてこの三つのバランスということなんですね。
長山 そうですね。「こういう人じゃないと駄目」みたいな定義はしていないですが、自発的にできる人の方が向いているでしょうね。
JADEでは、情報は基本的にはオープンになっていて、クライアントに関わる情報などは除いた上で、共有できるものは共有していこうという方向です。Notionにあるナレッジポータルを誰でも見ることもできるし、過去のミーティングログを見られるようになっていますので、好奇心を持ってやろうと思えばどんどんやれますから。クライアント案件に関わる情報はその案件に係るメンバーのみに限定されていますが、そうでないものはオープンになっています。
森野 知的探究心が高い人に向いていて、その他の二つの社会的なスタンスと組織に対するスタンスもわきまえていることが大切だと。この考えだと良い行動ができるから、会社も良くなってお客様も良くなるみたいな。ただ、これをものすごく気にしているわけじゃなくて、「そうなったらいいな」と思って、日々仕事をしている感じですか。
長山 お客さんが良くなったと言われても、その良さの定義ってどうするのか、それをどう指標化するのか、はそのお客さんによりますよね。満足度調査はできます。ただ満足度調査で測れるものには限りがある。担当者が成長してSEOについてものすごく詳しくなった、みたいのことは、担当者さんが変わったりしたらきちんと測れないですよね。なので、数字として定義し、指標化するようなことはあえてしていません。
現在のインターネットは良いものだろうか?
森野 なるほど。ちゃんと測ろうとしたらむりですよね。最近のインターネットはどうでしょうか? だいぶ良くないイメージはあるんですけど。
長山 先日、日本ファクトチェックセンターの古田さんと話したんですけど、インターネットが、本性的に「良いものだ」という時代は終わったように感じます。
90年代後半から2000年代にかけては、「インターネットは良いものだ」という認識が広く共有されていた時代でした。インターネットが拡大することによって、人がより繋がることによって、世界はもっといい場所になる、と素直に信じられていた。
【該当の対談記事はこちら】
森野 ありましたね、そういう考えは。
長山 ユートピア的な、あるいはカリフォルニアのヒッピー的な考えが、黎明期には少なからずあったと思います。例えば、Googleも「世界中の情報を整理して、アクセス可能にする」というミッションを持っており、それを推進することで世界は良くなると信じていた時代があった。ただ、インターネットの利用率が上がった結果、状況が変わり、ナイーブにインターネットの本性的な良さを信じられる時代は終わったのではないでしょうか。
弊社の「インターネットを良くする会社」というワード自体が、「そのままでは良くならない」という前提を持っています。SNSがヘイトの増幅装置になってしまうとか、FacebookやYouTubeといったメディアが陰謀論や間違った世界理解の温床になってしまっている現状がある。
森野 確かに昔は幻想的なものはありましたね。見えない世界もあったし、繋がっていないところもあったけど、すべてが繋がりきったらこうなっちゃった。見えなくていい部分がどんどん見えちゃったっていう感じですよね。
長山 そんな状況であっても、少しずつ良くしていけたらいいなと思っていますね。
森野 わかりました。いろいろお聞きしてすっきりしました。JADEさんのわかりにくさって、「こうしたい!」「こうしてほしい!」ではなくて「こうなったらいいな」にあるんだと思います。明確なイメージはなくて、人それぞれが考えなくてはいけなくて、それが我々というか周囲の人間にも及んでいる感じなので。
JADEという会社のちょっと未来の話
長山 長山の思想がわかりにくい、とはよく言われますね。
森野 逆に、わかりやすすぎると、それに固まっちゃって危ないですよね。さっきも話したようにやっぱり宗教化しちゃうのは怖いですから、もやっとしているくらいがいいなって思います。
長山 スタートアップだと、「これをやると世界が良くなるんだ!」といったようなビジョンを掲げている人の方が多いと思いますが、僕は基本的にシニカルな人間なので、そういった言説には反射的に身構えてしまうところがあります。
森野 多くの会社が「良くする」って言っておきながら、最後は売り上げだけしか見てないですしね。
長山 もちろん、売上や利益を出すといったことは、営利企業として存続するために必要なことです。それなしでは株式会社は存続できない。しかし、それだけではなくて、メンバーの幸福とか、会社の事業が社会にもたらすインパクトとか、そういうのも経営上は大事だと考えています。そこでバランスを取りながら、いかに真摯にミッションに向き合っていくのか、は難しい課題ではありますよね。
森野 そうですね。ところで、JADEさんって、資金調達とか上場とかあんまり考えてないんですよね?
長山 やらないと決めているというより、今はやる理由がない、が正しいと思います。例えば、Amethystを広めるためにもっと資金が必要だとか、経営的判断で「これはやるべきだ」となれば、もちろん資金調達はオプションに入ってきます。しかし我々がいるのはかなりニッチなマーケットだし、今は資金調達が有効に機能するフェーズではないと思ってるんです。
上場についても考え方は同じです。現状は労働集約的なビジネスであるコンサルティングが主要な事業です。提供するコンサルティングの質を維持しながら、メンバーがハッピーに働ける職場環境を保つのは既に容易なことではありません。ここに「株主への利益還元」という要素をさらに付け加えると、難易度はさらに高くなる一方で、できることはそう増えない。上場することが会社にとって有効に機能するフェーズにはまだない、と考えています。
森野 利益上げるなら、コンサルの頭数を増やすだけになっちゃいますよね。
長山 はい。もちろん我々も中期経営計画の中では「3年で組織を40~50人に増員する」だったり、「売り上げを倍増させる」だったりは言っているんですが。
森野 え、中期経営計画があるってことは、失礼ながらちゃんとした会社なんですね(笑)。
長山 そうらしいんですよ。僕は以前から「JADE会社説」を提唱しているんですが、どうやら真実らしい。
森野 ちょっと安心しました。売り上げにしても人数にしても、現状維持は衰退ですもんね。伸ばしていかないと。
長山 そうですね。新しいトレンドが出てきたときに、対応する能力が下がってしまいますから。GA4に力を入れ始めたのも、一昨年くらいの経営判断です。GA4の時代になって、BigQueryをベースにしたデータドリブンなマーケティングが可能になったので。そのときの状況に応じて「これが必要なんじゃないか」という手を打っていくのは、大事なことですよね。
森野 40~50人くらいになろうと思うと、営業組織的なものも必要になってきますよね?
長山 はい。以前は営業組織は一切ありませんでした。最近はセールスコーディネーター、と呼ばれる方が若干名います。「案件を取ってくる」、「数字にノルマを持つ」といういわゆる営業ではなくて、デリバリー側と一緒にリードを獲得して商談を設定していく、コーディネートに重きを置いている職種ですね。ただ拡大に伴って、いわゆる営業的な組織は必要となってくるはずです。
森野 そこに数値目標がないって、またすごいですね。
長山 もちろん経営陣としては「これくらいの売上・利益を目指す」という目標はあります。ただ現状はそれをノルマとして社員に課すといったことはやっていません。
森野 それができるのは、自分に対するスタンスがしっかりしているからですよね。
長山 今は25~30人くらいなのでこれでいいんですが、組織が拡大して50人になったときにどうするかは、これからの課題ですね。
森野 面白いですね。楽しみです。
〈著者プロフィール〉
森野誠之(もりの・せいじ)
Web制作の営業など数社を経て2006年に独立後、名古屋を中心に地方のWeb運用を支援する業務に取り組む。Googleアナリティクスなどのアクセス解析を活用したサイト改善支援を中心に、Web制作会社と提携し分析から制作まで一貫してのサービスも開始。最新情報を押さえながら、地方かつ中小企業向けのノウハウをわかりやすく説明できる数少ない人物。平日毎日発行される、Webマーケティング関連情報をまとめたニュースレター(毎日堂)は、業界内でも愛読者の多い人気ニュースレターとなっている。名古屋と徳島の二拠点生活中。尊敬する人はゴルゴ13。
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