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「ChatGPTで検索は終わる」「SEOの終焉」—— この数年、こんな見出しを目にする機会が増えています。しかし、現場の最前線では、まったく異なる議論がされていることもお伝えせねばなりません。
2025年2月14・15日、ヒカリエホールで開催された「GROWTH祭 TOKYO 2025」。1,300人以上のYOUTRUST利用者が登録し、事業成長を加速させるための知見が詰まったカンファレンスでした。
JADEでもFounder / CSOの長山一石がセッション「事業成長をけん引するマーケティング支援の新境地」に登壇。SEOと生成AIという一見相反するように見える2つの領域のスペシャリストが集まり、マーケティングの未来を語り合ったセッションです。
登壇メンバーは、Google出身でSEOとTrust & Safety領域の専門家である当社Founder / CSO長山と、東京大学大学院出身のAIエンジニアとして複数のスタートアップの事業立ち上げに携わり、現在は生成AI特化のエンジニア&マーケター集団AI HYVEを率いる津本海氏。そして、2008年からサイバーエージェントの広告事業に携わり、ブランド広告主のインターネット活用支援の第一人者である坂井嘉裕氏をモデレーターに迎えました。このディスカッションの内容を、JADEブログでダイジェストとしてお届けします。
"スパム戦争"の勝者は誰か?
セッションの序盤で長山は、SEOの歴史的な変遷についてこう語りました。
「ここ10年20年の間、SEOは変わり続けてきました。リンクファーストの時代があって、とにかくリンクを買っておけばよかった時代が2000年代にありました。そこからGoogleがリンクスパム対策に本腰を入れ始め、次はコンテンツをたくさん作ればいいという時代に移っていきます。それもまたGoogleが対処していく中で、最近では、AIを使ってどんどんコンテンツを作って、スパムのようなことをやる必要が出てきた。この攻防が続いていたのです」
「ただ、一方でGoogleはだいたいスパム戦争に勝利したというのも真実かなと思います。検出されるスピードはどんどん速くなって、新しい手法が出てきたとしても、最初は対策に半年かかっていたのが、次に同じような手法が出てくると数週間になり、そして即座に効かなくなる。そんな状況になってきました」
「検索インタラクションモデル」と「検索ジャーニー」
このようなSEOを巡る攻防の歴史から見えてくるのは、一時的な手法に頼らず本質的なSEOが必要だということです。
では、それを実現するには? JADEでは、独自のフレームワーク「検索インタラクションモデル」を開発しました。JADEブログの読者の皆さんや、ウェビナーに参加された方にはおなじみのフレームワークです。
長山「これは結構大きな名前を付けているんですけど、割と当たり前のことしか言っていない感じですね。まずSEOを2つに分けました。検索エンジンに対する最適化と検索体験に対する最適化で、スパッと分けてしまう」
JADEのSEO分析に触れたことがない方には、新鮮なフレームワークに聞こえたかもしれません。詳しくは上のリンクをぜひご覧ください。
同時に「検索ジャーニー」の概念についても詳しく紹介しました。
「例えば、JADEブログに出てくる『しいたけ栽培キット』に関わる検索ジャーニーですが、最初からしいたけ栽培キットを買おうと思って『しいたけ栽培キット』と検索する人は、そうそういないわけですよね。最初は何がしか、例えば新しい趣味を探しているとか、何か新しいことをしたいというところから始まります。最終的にしいたけ栽培キットを買おうというコンバージョンに達するまでに、どのような検索行動をするのか、これがフェーズごとに異なってきます。『このフェーズでは、こういう検索クエリが発生するはず』だと考え、それに向き合ったコンテンツをサイト側で用意し、最終的なコンバージョンまでのジャーニーをアシストしていく。そういった考え方で最適化を行っています」
この点について、坂井氏は「従来のSEOは最終コンバージョンに近いビッグワードへの対策が中心でしたが、このようにファネル全体をカバーしていく考え方は非常に興味深いですね」と評価します。
長山はさらに実践的な視点を加えました。
「どんな検索クエリもそれ単独で存在するわけではないです。このクエリで検索をしているユーザーは、前にはどのような検索行動をしていたのか、その後にどのような検索行動をするのかということを意識します。
特に重要なのは、次の検索を検索エンジンに帰らせずに、自分のサイト上でやってもらうことです。例えば『しいたけ栽培』というところに行き着いていない人がサイトに来た時に、『何かを育てる』みたいなより大きなテーマの記事があったとします。これを読んだら次に何を知りたくなるか。そこでそれをリコメンドしてしまうのです。すると高い確率でクリックが発生します。
検索エンジンに戻さないで、検索ジャーニーを自分のサイトで完結させる。この結果、SEOにも良い影響があり、ユーザーにとっても非常に有益だと考えています」
IQ145のAIが変える、マーケティングの常識
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生成AIのプロとマーケティングのプロが参画するAI HYVEを率いて「AIドリブンマーケティング」を実践する津本氏は、マーケティングの本質について独自の視点を提示しました。
「マーケティングを極端に抽象化すると、3ステップに分けられます。①コンテンツを作り、②それを検証し、③どれに使うか意思決定する。広告でもLPでもSNS投稿でも、この3ステップすべてに生成AIがインパクトをもたらすことができます」
開発中・実装中の具体例として、以下のようなプロジェクトを紹介してくれました。
LPO(ランディングページ最適化)のオートメーション
「個人の属性に合わせたターゲティングをしようとすると、LPを個人ごとに作るのは大変です。属性の数で分けても大変。でも、生成AIならそれを一気にできます」と津本氏は説明します。
具体的なアプローチは以下の通りでした。
- エビデンスに基づく訴求ポイントの設定
- 属性別の言葉遣いの最適化
- プロのマーケター視点での内容チェック
- A/Bテストの自動化と最適化
「特に重要なのは、生成AIを使って顧客との対話までシミュレーションできること。これにより、大量のバリエーションを作成し、効率的に検証することが可能になります」
サンゴ礁の海底を車が爆走する?
「昨年末にOpenAIのSoraがリリースされましたが、これは動画作りにおける大事件です」と津本氏は強調します。従来の動画制作における課題を具体的に説明します。
「例えば、車が海の底を爆走しているような動画。これは実際に撮影しようとすると、まず車を沈めるところから始めなければならず、相当な時間とお金と人が必要です。でも生成AIなら、すぐに作れてしまう。アンリアルなコンテンツ作りの効率化と、クオリティー担保が劇的にできるようになったと言えます」
しかし、生成AIによる動画制作にも課題があります。
- 顔が急に変わってしまう
- 一貫性の維持が難しい
「これらの課題に対して、我々は独自のプロンプト制御システムを開発し、品質の安定化を図っています」
不祥事を起こさないタレントが生み出される
業界特有の課題に対する新しいソリューションとして、AIタレントの活用を提案しています。
「製薬会社さんの例がありまして、自社の風邪薬が若者のオーバードーズに使われてしまっているという懸念から、タレント起用を控えているケース。あるいは不祥事リスクの観点から実在するタレントの起用を躊躇するケース。こういった状況でAIタレントは有効な選択肢となります」
効果検証の結果も興味深いものでした。
「めちゃくちゃ有名なタレントさんを使う場合を除いて、AIタレントでも同等の効果が得られることが分かっています。特に、長期的な活用や多様なコンテンツ展開において、AIタレントの優位性も見えてきました」
市役所の窓口が優しくなる
生成AIの活用は民間企業だけでなく、公共セクターにも広がっています。
「市役所や美術館での活用が始まっています。例えば、『結婚したんだけど、どういう手続きすればいいの?』という質問に対して、優しい口調で案内してくれるAIアバター。これは単なる情報提供以上の価値があります」
津本氏は、このような行政サービスのAI化について、以下の利点を挙げました。
- 24時間対応可能
- 多言語対応の容易さ
- 一貫した対応品質の維持
- パンデミックなどの緊急時対応
AI HYVEのサービス数に驚きを隠さなかった坂井氏から開発スピードについての質問があがると、津本氏は開発も生成AIに頼ることでプロトタイプづくりが爆速になることを説明しました。
生成AIはそれだけだと真価を発揮しない
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パネルディスカッションでは、AIと人間の役割分担についても深い議論が交わされました。津本氏は生成AI活用の本質について、明確な見解を示します。
「生成AIってそれだけだと真価を発揮しないんです。どこに使うかが価値の本質なので。特に面白いのは、特定のドメインのプロに使い方を教えると、自分の領域で想像以上の使い方を見出してくれるんですよね。マーケターに生成AIを渡してサービス提供できるようにすると、一気に進むというケースが多いですね」
長山「確かに、我々のコンサルタントたちも、生成AIを使いこなし始めると、以前は1週間かかっていた作業が数時間で終わるようになりました。ただし、それは明確な目的と専門知識があってこその話です」
続いて話題は生成AIとSEOの関係へと移りました。
津本氏「生成AIをオンにして検索すると、結局SEOで上位表示されているコンテンツが検索結果として出てきます。つまり、SEOに加えて生成AIでキャッチしやすい表示の仕方を工夫することが、次のSEOになっていくのではないかと思っています。その意味でSEOは再注目の時代が来ると考えています」
長山は、生成AI時代におけるSEOの本質についても指摘します。「AIアシスタントにせよ、検索エンジンにせよ、最終的に出力される情報はウェブ上に存在するものなんです。そこから学習し、検索のランキングを加味して文章を生成している。つまり、基本的には情報を探し、必要な情報をAIに表示させたいのであれば、その情報を求めている人にとって分かりやすい情報を、ユーザーに伝わりやすい形で書いていく。そういった基本は変わらないということです」
人間とAIの共創へ
さらに議論は、生成AIの特性そのものへと展開します。津本氏は、AIの「ハルシネーション」という特徴について興味深い解釈を示しました。
「AIのハルシネーションというのは結構不可避なんです。でも、実はこれ、実在しない事実に対してシミュレーションする能力があるということなんですよね。生成AIにはその強みがある。ハルシネーションは起こしちゃうんですけど、学習データにしっかり載っているものは回答できる。最新の生成AIはIQ145とか言われていますし、東大の教授が120ですからね」
この点について、長山は実例を交えて説明します。「例えば地域情報のコンテンツをAIに作らせようとした時、現実世界の理解が不十分で、路線や距離感などで誤りが生じることがある。結局のところ、人間の専門知識とAIの能力をどう組み合わせるか。そこがこれからのAI活用の重要なポイントかなと思います」
マーケティングの未来地図
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討論の終盤は、マーケティングの新境地が話題となりました。津本氏は、生成AIの進化がもたらす可能性について語ります。
「今後はセンシング技術の進化が鍵を握ると考えています。例えば、首から下げるカメラとマイクのデバイスで、人の行動や会話をAIが理解する。もちろんプライバシーの問題はありますが、これを解決できれば、マーケティングはさらに大きく変わるでしょう」
一方、長山は検索体験の本質的な部分は変わらないと指摘します。「結局、検索というのはユーザーの意図を理解し、最適な情報を提供すること。この本質は変わりません。ただし、その実現方法は大きく変わっていく。特に、検索ジャーニー全体を通じたユーザー体験の設計が、より重要になってくるでしょう」
議論の締めくくりとして、両氏はマーケティング支援の今後について、それぞれの視点を示します。
津本氏「生成AIをマーケティングで使う際、一番重要なのは『マーケターセントリック』な体験の提供です。技術はあくまでも手段であり、マーケターの創造性を最大限に引き出すためのものである。その意味で、我々はマーケターと生成AIをつなぐインターフェースの役割を担っていきたい」
長山「我々も同じく、技術を通じてマーケターを支援する立場です。ただし、重要なのは、どんなに技術が進化しても、最終的にはお客様の成功にコミットすること。そのために必要な技術やツールは変わっていきますが、この本質は変わらないと考えています」
技術の進化の先にあるもの
このセッションを通じて見えてきたのは、マーケティングを取り巻く技術の劇的な進化と、その中で見出される普遍的な価値でした。SEOであれ生成AIであれ、新しい技術は確かにマーケティングの実務を大きく変えていきます。しかし、両氏の対話から浮かび上がってきたのは、それらはあくまでも「ユーザーにとっての価値」を実現するための手段だということ。
技術の可能性を追求しながらも、その先にある本質的な目標を見失わない――そんな示唆に富んだセッションとなりました。
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本記事は2025年2月14日、GROWTH祭 TOKYO 2025で開催されたパネルディスカッションの内容を基に作成されています。登壇者の発言は読みやすさを考慮して一部編集していますが、できる限り発言の文脈と意図を保持するように努めています。
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